ひきこもり経験者の日記連載『すぐそこにあること』

ひきこもり経験者のブログ「すぐそこにあること」

ひきこもりは就労支援で解決できるのか



今尚ひきこもり支援の中心は就労支援だ。僕がお世話になってる某支援先でも当初「あなたはどのくらい働けるのか」と問われ「週30分」と言えば、社協の折込作業がある。そんなアドバイスを受けた。

僕はとても不愉快だった。当時、僕は精神疾患から回復過程で、体調に波があったので、決まった日時に支援先へ通ってそこに「居る」そのことによって僕自身が回復していく「訓練」だった。そんな段階で唐突かつ拙速に就労することを提案され、なんで僕の事をわかってくれないのか。どうもこの支援者とは相性が悪い。そんな違和感を担当者が変わるまで、終始付きまとった。
 
〇あまりにも高いハードル 

ひきこもった人にとって経済的な問題はまさに最大の問題で僕を含めた当事者・経験者はこの事実を誰よりも理解している。にもかかわらず就労できない。それは、就労のハードルの高さにある。短時間労働と言っても2時間から。経済的な自立のめどは月収15万程度。
当時、体調が悪いときは風呂に入ること、自宅から外出することさえ難しかった。そんなとき、2時間も働くのはあまりに難易度が高いし、就労を意識することさえ苦痛だった。


〇支援者のおごり

就労とは基本的にどこかに出かけて何か業務をこなして帰宅するのが通常だ。だから僕は支援機関を一定の時間居る場所として活用した。スタートとしての目標はとてもよかったと感じている。

その後、僕はひきこもり解決は様々な機会が大事だという言葉を頼りに色々な支援機関を利用した。心地よいと感じたのは、アンガージュマンのフリースペースでのんびり過ごした時間だ。支援者がああいろ、こうしろといわない支援。当事者の主体性を尊重する支援。また遊悠学舎の「待つ支援」僕の主体性を尊重し、悩みを否定せず聞いてもらい、共に解決していく支援。そしてこうして書く機会話す機会を与えてくれた滝田さん独自の支援。それぞれの支援者はまさに僕の主体性を尊重しながら課題解決に全力で支援してもらった。そして僕は回復している。一方で、冒頭に書いたような我々支援者は正しく、支援を受ける人はそれを実行すべきといった空気に僕は耐えられなかった。


〇たった4

ひきこもり当事者が望む支援が就労支援ではないというデータもある。ひきこもりの人が全国にある地域若者サポートステーション(就労支援機関)を利用しているのはたった4パーセントしかない。いかに就労に偏った支援が間違っているのかよくわかるデータだと思う。


〇共感の力

現在、ひきこもりUX会議が全国でひきこもり女子会を開催している。女性のみを対象にした自助会。ここで当事者、経験者が自己を開示し、苦しいのは私だけではなかったという共感の力で多くの人が回復している。

そんな状況化、僕は市外に出ると不安という症状に悩まされるようになった。

そして、女子会が全国各地でとても好評というニュースがSNSTVで見るようになった。評判がよい女子会に他県から人が参加する。そんなニュースを聞いて「そうか、ひきこもりの人は他者と関わるのが苦手でも他県まで行くエネルギーや行動力があるのか」そんなことを感じた。そして外出する不安を抱えているのはひきこもった人の中でも少数なのではないか。もしかしたら僕だけが苦しい体験をしているのではないか。そんな恐れを抱いた。

一方、林さんの紹介で購入した女子会の冊子の中で「ひきこもり当事者の多くは電車に乗る練習をして、女子会に参加する」そんな1文に僕は心から安堵した。外出する不安、電車の閉塞による不安は僕だけじゃないんだ。そして、力が湧いた。僕は孤独ではなく、出会ったことのない人と不安を分かち合い、共に生きているような感覚さえある。

こうしたことを経験しても、まさに就労支援では解決しない課題が共感の力で前に進もうそんな体験ができた。
 


〇先送りすることの是非

このように僕の体験やデータを用いて、ひきこもった人にとって就労があまりにもハードルが高いというのことがわかっていただけたのかもしれない。そしてこの事実はもはやひきこもり界隈では定説になりつつある。仮に、就労にこだわらない、むしろ就労支援をしない(段階的な支援は当事者が支援者の思うような答えをしてしまうので)。当事者の要望にそった支援センターが全国にできれば、多くのひきこもり当事者、経験者が利用したいと思えるのではないか。もちろん僕もそんな支援機関があれば利用したい。
 
 同時に考えたのは滝田さんの支援だ。僕に様々な役割を与えてくださり、その成果として書く事話す事ができるようになった。このような活動は楽しいし、日々が充実している。ただ、僕が行動することが素晴らしいと認めてしまえば、ひきこもりを否定することにならないか、それ以上に僕自身がやり残した課題、先送りし続けた結果37才になっても就労と恋愛の経験がない。この事実と向き合わねばならずそれはそれは苦しい。といってもいつまでも先送りするわけにもいかず先日、障がい者就労支援の担当者に相談に乗ってもらった。一般の就労ではないから僕にも出来ることがあるのかもしれないと期待を膨らましていたのだが、週20時間からスタートすると繰り返し説明され、支援を受ける多くの人も20時間からスタートするらしい。僕は週に2時間も働く勇気さえないのに20時間と言われたとき、心が折れそうになった。しかし、林恭子さんの体験談、ひきこもり経験者の言葉―辛いときには家から一歩も出れないーに僕の心は支えられ、20時間から働けるひとはごく一部という認識で気持ちが楽になった。やはり就労は大きな壁だ。